大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(行ウ)102号 判決 1992年11月10日

原告

大田黒純子

右訴訟代理人弁護士

富澤準二郎

石井和男

被告

国家公務員等共済組合連合会

右代表者理事長

戸塚岩夫

右指定代理人

池本壽美子

村上行雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成三年一〇月三一日付で原告の遺族共済年金の請求を棄却した決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、国家公務員等共済組合の組合員で減額退職年金の受給権者であった者が平成二年二月に死亡したことにより、その戸籍上の配偶者が、遺族共済年金の請求をしたのに対し、国家公務員等共済組合連合会が請求者は組合員と事実上離婚状態にあって配偶者とはいえず、組合員により生計を維持していたものでもないとして、これを棄却する決定をしたので、その取消しを求めるものである。

一  前提となる事実関係(証拠により認定した事実は、その項の末尾に証拠を掲げた。その他は、当事者間に争いがない。)

1  大田黒義男(平成二年二月一七日死亡、以下「義男」という。)は、国家公務員等共済組合法(以下「法」という。)に基づく減額退職年金の受給権者であった。

2  原告は、昭和一九年一二月二一日義男と婚姻し、その間に義郎が出生した。

3  義男は、昭和三七年一二月三一日原告と義郎の不在中に、自宅から家出をし、以後死亡するまで原告と同居することはなかった。義男は、東京家庭裁判所八王子支部に夫婦関係調整の調停を申し立て、昭和三八年四月三日義男が原告に対し、当事者間に別に調停が成立するまで婚姻費用として毎月三万五〇〇〇円を支払う旨の調停が成立した。そこにいう別の調停は、申立て自体されなかった。

4  義男は家出以来藤岡惠美と同居し、その間に昭和三九年一〇月一日眞理が出生した。義男は、同月二三日眞理を認知し、昭和四七年一月二四日義男の戸籍に入籍させた。

5  原告は、義男が調停で定められた婚姻費用の履行を怠ったので、数回にわたって強制執行を行った。その後義男から現金書留で送金されることもあった。

6  原告と義男とは、調停成立以来、昭和三九年の始め頃親戚とともに集まった際話し合ったことがあるだけで、その後は義男死亡まで顔を合わせたことはなく、直接の音信もなかった(<証拠略>)。

7  義男は、平成元年八月二〇日付けで遺言書を作成している。その内容は、不動産、動産を眞理に相続させ、年金受給権は藤岡惠美に贈与するというものであった。

8  原告は、義男が同居の女性と縁を切って夫婦同居が復活されることを願っていた(<証拠略>)。

9  原告は、義男の死亡に伴い、その遺族であるとして、被告に対し、法に基づく遺族共済年金の支給の請求をしたが、被告が、これを棄却した。その審査請求について、国家公務員等共済組合審査会は、これを棄却した。

二  争点及びこれに対する当事者の主張

法二条一項三号によれば、義男の戸籍上の配偶者である原告について、遺族共済年金の受給資格が認められる遺族とされるためには、原告がその規定にいう組合員であった者の配偶者で、組合員であった者の死亡の当時その者によって生計を維持していた者に該当することを要する。したがって、本件の争点は、原告が、右規定にいう配偶者としての遺族といえるかどうかである。

(被告の主張)

1 本件事実関係によれば、原告と義男との婚姻関係は実体を失って形髄化し、かつ、これが固定化して、近い将来解消する見込みはないものとなっていたと判断すべきである。

2 原告は、主として自己の内職により生計を立てていたもので、義男の死亡当時、義男によって生計を維持していたものとも認められない。

(原告の主張)

1 義男の原告との婚姻関係についての意思がどのようなものであれ、原告は、義男に依然として愛情を抱き、同居を願っていて、再婚を考えたことはなかった。義男から婚姻費用を継続して送られ、それを生計費の一部としていた。これら事実関係によれば、義男と原告との婚姻関係が形髄化していたとはいえない。

2 本件のように、重婚的内縁関係にある者と法律上の妻とが居る場合には、生活維持条件を強調すると、事実上法律上の婚姻関係を無視することとなるから、これを重視すべきではない。

第三争点に対する判断

1  前記事実関係によれば、原告と義男とは、昭和三七年一二月末以来義男が死亡した平成二年二月一七日に至る二七年余の間別居状態であり、その間義男は藤岡惠美と同居してその間に子を儲け、これを認知して自分の籍に入れており、原告とは、昭和三九年に一度話し合ったことがあっただけで、その後顔を合わせたことも直接音信のあったこともないというのであるから、原告と義男との別居の原因が、専ら義男の責めに帰するべき悪意の遺棄にあり、原告がある程度継続的に調停で定められた婚姻費用三万五〇〇〇円の送付を義男から受けており、また、原告においては、義男との婚姻を継続する意思を有していたとしても、なお、原告と義男との婚姻は、完全に破綻して形髄化し、かつその状態が固定化して近い将来解消される見込みのない状態にあったものと評価せざるを得ず、原告を法二条一項三号にいう配偶者ということはできない。

2  なお、前記事実関係によれば、原告は、昭和三八年以来義男から三万五〇〇〇円の婚姻費用をある程度継続的に送付されてきたことが認められるが、その額は、昭和三八年以来増額されていないのであって、少なくとも昭和六〇年代になってからは、そのような額では生計維持の一助とするにも足りない程度のものといわざるを得ず、かつ、昭和六一年に入ってからは、その額さえ定期的には送付されなくなったというのであって(原告が<証拠略>において記載するところである。)、原告が、義男の死亡当時、義男によって生計を維持していたものでもないことが明らかである。

第四結論

そうすると、原告は、義男との関係で法二条一項三号所定の者に該当するとは認められないから、原告の給付請求を棄却した本件処分は、適法である。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 榮春彦 裁判官 長屋文裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例